2020年4月13日月曜日

ネパールMero Sathi Project 2020 2月プログラム 報告書(3)關根ゆり子(上智大学文学部フランス文学科 1年)

「感性を取り戻す旅」


上智大学 文学部フランス文学科 1年
關根ゆり子

私はネパールへ行く前に、この旅の目標を決めた。題して、「感性を取り戻す旅」だ。理由は簡単で、ただ精神的に豊かな生活を取り戻したかったからだ。私は高校生の頃1年間ベルギーへ留学した際、道端に咲いたタンポポに感動し、綺麗な空を見るだけで涙を流すほど感性豊かだった。しかし、日本に帰国してからは毎日ぎゅうぎゅうの電車に乗り通学し、放課後は大学受験のための塾へ行き、せわしない生活に戻った。完全に東京に揉まれて感性など失っていたのだ。そこで、今回このプログラムで新たな世界を見ることで感性を取り戻せるのではないか、と考えた。この報告書では、私の心がどう変化したかについて述べようと思う。
 結果からいうと、滞在中は感性を取り戻すどころではなかった。あまりにも今まで私が訪れた国とは異なり、歩いているだけで質問で頭がいっぱいになる程刺激的な毎日だったからだ。感性を取り戻すのを超えて、新しいことに興味が湧き、新しい自分に気づいた旅となった。そんな旅をするうちに、感性を豊かにする方法を学んだことに気付いた。それは、日常のすべてを五感で感じることと、自分に自信を持ち命と環境に感謝することである。
 まず、五感を駆使することでより多くの文化を感じ取ることができる。例えば、聴覚。日本でイヤフォンで音楽を聞かない日はない私が、12日間1度もイヤフォンを使わなかった。常にネパールメンバーと話し、ネパール音楽を聞き、街の音を聞いた。車の走る音が夜も絶えず宣伝やアナウンスの音が大きい日本に比べ、首都カトマンズではバイクとクラクション音が大きく、小さな町シクレスでは鳥のさえずりの他は何も聞こえなかった。私が毎日音楽でシャットアウトしていた街の音だけでこんなにも違いを感じることができた。そして何より五感を使ったのは、人と会話する時だ。ただ聞くことに集中するのでなく、相手の動きをよく見たり、相手との距離感を感じることでどう返せば良いかを考える。そうすることで、新しいことに気付いたり感性も磨かれ、同時に相手と仲良くなることができた。また、仲良くなれたことでネパールの歴史や彼らの考えなども深く聞くことができた。私は幼い頃から、祖母に「何よりも友達を大切にしなさい、友達は何でも教えてくれるのよ。」と言われて育った。今回はまさに祖母の言葉を実感した旅となった。そして、ネパールメンバーは五感を使うのがとても上手い。彼らは日本メンバーへの観察力がすごく、何も言わなくてもこちらの気持ちに気づいてくれたり、とても気遣ってくれた。これが彼らの長けた想像力に繋がっているのだと考える。シクレスの学校での授業を準備していた時、私は彼らの想像力に圧倒された。一人一人のアイディアがとても面白く、相手の意見を取り入れながら新しいアイディアが次から次に出てあっという間にクラスの内容が決まっていった。説明するのに時間がかかる私の意見も時間をかけて一生懸命聞いて取り入れてくれた。私はこれから意識的に日常の様々なことに対して五感でアンテナを張ろうと思う。
 そして、二つ目に自分に自信を持ち自分の命と環境に感謝すること。私は物質的に豊かな生活ではなく、精神的に豊かな生活をしたいと思っていた。そのために今回のプログラムに感性と取り戻す旅、と名前をつけた。実際シクレスという小さな村の人々は日本人よりも物質的には豊かとは言い難かったが、精神的に豊かな生活をしていると感じた。私はネパールに行くまで、彼らは他の世界を知らず選択の自由がないから彼らの生活に満足できるのだと思っていた。なぜなら、新しいものに興味が湧くのは人として当然のことだからだ。しかし、彼らは先進国の生活を知っていた。ではなぜ彼らの生活に満足できるのか。それは、自分たちの生活に誇りを持っており、さらに自分の環境に感謝できる心を持っているからだと考える。歴史を知っているからこそ自文化に誇りを持てるし、自分がその環境にいるからこそ、その経験ができるということを知っている。その経験は自分以外誰も体験できない唯一無二なものであり、まさに小さな奇跡、そして幸せである。この考えが彼らに深く根付いているのだと思う。対して、日本人はこの気持ちを忘れていると思う。衣食住に困らず、趣味に時間も費やせる。家族と一緒に暮らせて、学校に行ける。このありがたさを常に忘れてはいけない。つまり、物質的豊かさと精神的豊かさは対義語ではない。結局は物質的に豊かでもそうでなくても、自分に自信を持って自分の命と環境に感謝することが、感性を豊かにして幸せに生きる術なのだ。
 日本に帰ってからたまに思う。今頃シクレスの人々は何をしているのだろうかと。その度に、彼らと私たちが幸せに暮らせていることに感謝する。このプログラムで学んだ感性を豊かにする方法をこれからも実践して、幸せに生きてゆこうと思う。

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