2020年9月15日火曜日

ベトナム CVJ 2020 (Connect Vietnam-Japan, 2020) 報告書(3)沓名彩花(上智大学文学部英文学科2年)「オンラインという障壁を武器に」 


  
オンラインプログラムと聞くと、感動が生まれない、深い関係が築けないとイメージする人が多いかもしれない。大学のオンライン授業への移行によって「孤独感」「不安感」を訴える学生が急増したなどという報道を耳にすることが多い今日では、尚更そのようなイメージを抱きやすいだろう。実際私もオンラインプログラムでどれほどの学びを得ることができるのか、親睦は深まるのか、未知数だと感じていた。しかしプログラムを終えた今となっては、本プログラムは、2020年で最も印象的で学びの多い出来事であると断言できる。本報告書では、オンラインプログラムが成功に至った3つの理由に焦点を当て、これらを踏まえた上でオンラインプログラムの可能性について述べる。

 まずオンラインプログラムが成功に至った3つの理由について述べる。1つ目は、オンライン授業を経験した参加者がオンラインのデメリットを十分に把握していたので、事前に起こりうる事態を予測し、対策を練ることができたということ。2つ目は、プログラムによって拘束される時間が現地に赴くよりも少ないため、各自で時間を捻出し、プログラムの質の向上のために割り当てることができたこと。3つ目は、オンラインだからといって印象の薄いものにしたくないという思いが参加者全員にあったということだ。次にこれらの3点について具体的なエピソードを述べる。


 初めに、オンラインのデメリットを把握している参加者が多数いたことで未然にトラブルを防止できたことについて述べる。コロナ禍でオンライン授業でのデメリットは複数回メディアによって取り上げられ、オンライン授業内でそれらをテーマとして話し合う機会が与えられることもあった。主なデメリットとしては、コミュニケーションが希薄になることやオンラインの接続状態に不具合が生まれることへの懸念が挙げられる。これらのデメリットを把握した上で、一人一人がその障壁を越えようと行動した。例えば、プロフィール帳のような多数の項目が書かれた自己紹介テンプレートを用いて、自己紹介をした。そしてzoomを使って雑談トークルームを開き、プログラムの内容以外のプライベートな一面を見せ合うことで距離を縮めようと歩み寄った。ベトナムからの参加者ともプログラム前からS N Sを通じて頻繁に連絡をとり、距離を縮めた。オンラインの障壁をオンラインのメリットを駆使して対処することで、対面で同じ空間を共有できないギャップを埋めようとしたのだ。このような試みは見事成功し、その証拠にプログラム終了後も毎週プレゼンテーションのグループで定期ミーティングを行なっている。オンラインの接続状態の不具合も起こったが、過去に同じような不具合を経験した参加者がアドバイスをしたり、なぜそのような不具合が起こるのか状況から原因を分析したりして事なきを得ることができた。


 次に、各自の時間の使い方に柔軟性が生まれたことについて述べる。オンラインプログラムは拘束時間が現地に赴くよりも少ないため、各自の自由時間はいくらでもプログラムの質の向上に割り当てられた。環境の変化がないため、体調管理がしやすく、体力的にも余裕が生まれたことも一つの理由と言える。体力に限界を感じることがなかったため、睡眠時間を削り納得するまでプレゼンを作り続けたり、次の日の計画の作戦を立てたりすることができた。またプログラム中に得た新しい知識をより深めようと、その日中にリサーチすることもでき、一人でじっくりと向き合う時間が必要な私にとっては有意義な過ごすことができた。私は少人数のディスカッションでベトナムの参加者から聞いた山奥で暮らす少数民族の子供が学校に行けないという話が特に印象深かった。政府が少数民族のもとに出向き、親に子供に教育の機会を与えることの重要性を話しても、その重要性が理解されなかったり、貧困なために出稼ぎに行かせることを優先させてしまったりするという現状を聞き、教育と貧困は相互的に影響を及ぼすことを学ぶと同時に、富裕層であるベトナムの参加者との貧富の差を感じ、根深い問題の解決策をその日のプログラムが終わった後もしばらく考えていた。すぐに解決策が見つかった訳ではないが、その日話し合ったことをその日のうちにゆっくりと考える時間は大変実りの多い時間だった。現地に行けず、様々なものを目でそして肌で感じることができなかったことは悔やまれるが、このような時間の使い方ができたことはオンラインのメリットと言えると思う。


 最後にオンラインプログラムを印象の薄いものにしたくないという強い思いが参加者全員にあったことについて述べる。オンラインプログラムを充実したものにするために、参加者は様々な工夫を拵えた。ベトナムの参加者は、ホーチミン市に位置する大きい市場Bến Thành Marketやfloat market、水上人形やランターン通り、ストリートフードなどベトナムを代表するあらゆる場所を、プレゼンまたビデオを通じて発表してくれた。Bến Thành Marketでは値段交渉をすることが常識などベトナムの文化や慣習も学ぶことができた。対面で伝えられない分、発表はどれも手の込んだもので、まるで現地にいるかのような臨場感があった。日本ではベトナムよりもコロナの感染拡大が著しかったため、日本人の参加者同士で集まる機会がなかったが、プレゼンの中で、日本の伝統的な歌をバックミュージックとして使ったり、各自で恋するフォーチューンクッキーを撮って編集で繋げたり、関西出身の参加者が関西弁を教えたりと、それぞれの才能を存分に発揮し、日本の魅力を伝えることができた。日本の伝統衣装を担当した私も涼しい顔をして浴衣の着方ビデオを披露したが、実はこの発表のために一人で浴衣が着られるよう練習した。各国2名ずつの計4名で構成されるアウトカムプレゼンのグループでは、『ベトナムの高校生が将来の方向性を見据えるために私達ができること』というテーマをもとに約一ヶ月間ミーティングを重ね、より良いものを作り上げようと意見を出し合い、納得するまで質問をし合うという非常に貴重な経験ができた。オンラインだと英単語が出てこない際、近くの人に助けを求めることができないという障壁があるが、言葉が出てこない時にはゆっくり待っていてくれたり、言おうとしていることを予想して「こういうこと?」と言ったり、周囲の人の温かな心遣いのおかげでその壁は乗り越えることができた。


 このようにオンラインプログラムでは、障壁を武器に変え、その過程までも楽しむことによって最高のものが作り上げられる。この障壁は誰でも超えられる容易なものではなく、他ならぬ、輝いた才能と思いやりを持ち、影よりも光に焦点を当てる参加者、関先生、運営の方々、その他プログラムに関わってくださった全ての方々のおかげであり、感謝を送りたい。





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