「心の壁を崩す」
上智大学総合グローバル学部
総合グローバル学科2年
関 愛生
2016年夏のNJEPスタディーツアーは、生涯忘れることの出来ないほどよい思い出となった。高校時代の一年間をネパールで過ごした私にとって、ネパールという国は人生の原点とも言える場所だ。中学3年時、高校受験前の最後の夏、受験勉強に勤しむ周囲の人々をよそにネパールに旅行に出かけ心底ネパールに惚れ込んだ私。帰国したその日に両親に頼み込みネパールの高校に進学することを認めてもらった。今考えてみると、当時の私はとんでもない決断をしたと我ながら驚いてしまうが、そこでの経験こそが私の人生を大きく変えた。
毎日長時間停電し、水不足で水道がほとんど使えなかったりなど、日本で生まれ育った私にとって生活面で苦労したこと多々あったが、それ以上にネパールの人々と毎日一緒に過ごし、語り合う中で多くのことを学ばせてもらった。毎日が忙しく時間との戦いである日本とは対照的に、ネパールでの生活は緩やかで時間に追われることはほとんどなかった。そんな環境だからか、ネパールにいると私は毎日のように人生を振り返り、自分自身についてゆっくり考えることが多い。不思議なことに、日本では全く気づくこともなかった私の心の奥底にある想いにふとした時に気付けたりするのだ。そういった意味では、私にとってネパールという国は自分に一番正直になれる場所で、だから日本に帰国してからも毎年のように通っているのかもしれない。
大学生になってからは、スタディーツアーの企画者、そして一参加者としてネパールを訪れている。私たちの企画するスタディーツアーの最大の特徴は、日本の大学生と現地の学生との交流に最も重きを置いているということである。ネパールに到着した日から帰国日まで、約20人の両国の学生から成る私たちのチームは、ツアー中はどんなことがあっても一緒に過ごす。朝起きる時も、ご飯を食べる時も、真剣に話し合う時も、冗談を言い合うときもいつも一緒だ。ここまで学生交流を重視しているスタディーツアーだからこそ、仲間の存在が何よりも重要となる。私にとって、企画段階から中心的に関わるのは大学生になってから2度目だったが、幸運なことに今回も最高の仲間に恵まれた。日本側のメンバーは、メンバー募集開始からなんと2日も経たずに決まり、高校生から大学生まで驚くほどに個性豊かなメンバーが集まった。ネパール側からは、壮絶な受験戦争を勝ち抜いてきた優秀な大学生がメンバーとして顔を揃えていた。
ツアー初日、ネパールの空港で初めて顔を合わせた両国学生は、最初はぎこちない雰囲気になるかと思いきや、空港から宿泊先に向かうバスの中ですでに、みんなで日本やネパールの歌を歌って大騒ぎするほどになっていた。そんな最高の仲間たちと過ごした2週間で出来た思い出は星の数ほどあるが、その中でも私にとって一生忘れることのないだろう思い出をここに書きたい。
ツアーの最中、日本人学生の一人が誕生日を迎えた。その時私たちは、2日間をかけて辿り着いた山奥の村でホームステイをしていた。その日の朝、村の公民館に集まってきたメンバーのひとりが今日がその日本人学生の誕生日であること、そして何かしらの方法で祝いたいということを誕生日である本人にバレないようにみんなに伝えた。すると、ネパール人学生たちが「ネパールで誕生日を迎えたのだからネパール式の誕生日の祝い方をしたい」と言い出し、リーダーシップをとって私たち日本人に指示を出しながら壮大なサプライズパーティーの準備を進めてくれた。誕生日である本人にバレないように、両国の学生が一体となって何時間も夢中になって準備したそのサプライズパーティーは、絵に描いたように上手くいき見事大成功に終わった。その瞬間、日本とネパール両国の学生の間にあった壁が一気に崩れ、私たちは本当の意味で一つのチームの仲間になれたと感じることができた。
全く違う環境で育ち、全く違う文化や習慣を持った人同士が心の底から打ち解けられるようになるのは簡単ではない。今回のツアーでは両国の学生が出会ったばかりの頃から一緒に歌い、多くのことを話して表面的には仲良くなったように見えても、やはり最初は、お互いの違いを受け入れることが出来ず衝突することもあった。それでも長い時間を共に過ごし、様々な喜びや苦悩を共有することで初めて「心の壁」を崩すことができたのだと私は考えている。サプライズが成功したあの感動の瞬間にこそ、計り知れない価値があるのだ。一度心と心で繋がった友情は、国境や時間を超えて繋がり続ける。
日本で生活していると、グローバル人材という言葉を聞かない日はない。ではグローバル人材とは何か。私の知る限り、日本ではグローバル人材=語学力と単純に結びつける風潮があるように思う。確かに国際社会で活躍する上で語学力が重要であることは間違いない(例えば僕の場合、ネパール語を介せることのメリットは計り知れない)。しかし、語学力だけでは不十分である。私のこれまでの経験からグローバル人材になるために最も重要だと思うことは、世界の人と触れ合う時にその人と自分との差異を感じ取り、受け入れ、その上でその人を尊重できるようになるということだ。それが出来て初めて、相手の心に入り込み互いの気持ちを共有できるようになるのだと思う。 私を含め今回のツアーに参加した両国の学生は、このことを見事に体得出来ていた。そして今回の経験は参加者にとって、今後、国際協力、ビジネス、政治、どの道に進むにしても大いに役立つだろうと信じている。
私自身は、今回のツアーを通じ、企画者の観点でいくつかの改善点も見出したので、次回に向けて構想を練り直し、さらにレベルアップしたプロジェクトを実現したい。SNSで世界中の誰とでも情報交換できる今の時代だからこそ、世界で活躍することを志す多くの若者にこのツアーの存在を知らせ、参加してほしいと願っている。そして世界中の仲間と切磋琢磨しながら、よりよい世界を目指し自分たちにできるアクションを起こし続けていきたい。