2016年11月5日土曜日

ネパール NJEP 2016 報告書 (3) 奥山りつ(立命館大学国際関係学部2年)「文明と心の豊かさの綱引き」

「文明と心の豊かさの綱引き」

立命館大学国際関係学部2年
奥山りつ

 本レポートでは、ネパールツアーから二か月経った今、一番頭の中に鮮明に残っているツアー中盤で訪れたマイダン村での3日間のホームステイでの自分の中の「幸せ」の認識の変化について記したい。
 マイダン村にはお風呂はもちろんシャワーはなく、トイレは何軒かで共有していた。それに加え、動物のフンがそこら辺中に落ちていたりしてお世辞にも衛生的とは言えなかった。ではなぜそんな場所にいて幸せを感じたのか。それは夜日が暮れると家に帰り、朝は鶏の鳴き声で起きるといったように自然と同居して暮らすといういわゆる原始的な生活に自分が癒されていたからだ。村の中で生活している限り、多くの部分は物々交換で賄える点や、家畜を屠殺した際も血や気管に至るまで無駄にすることなく食べ尽くし、村中に均等に配分する点で、金銭ではなく、生死のサイクル・人の繋がりがよく活用されているのを実感した。
 普段日本でかなり恵まれた生活を送っている私にとって、もしくはカトマンズやその他の都市で大学まで通って教育を受けているネパールメンバーにとっては、このような村での生活は十分非日常だといえる。私に限らず、このような非日常には多くの人が魅力を感じるだろう。ではその魅力を感じる心の根底にあるものは何なのか。マイダン村での生活に惹かれるのには、自分の日本での生活への不信や疑問が少なからずある。物質的な豊かさに恵まれ、さほど苦労せずに育ってきた私にとって、思い描く「幸せ」な生活の送り方は一つの決まったモデルがあった。しかし、その生活を実践しているにも関わらず、どうも精神的に満たされておらず、常に時間と追いかけっこしているような感覚に陥って焦っている。そこで全く違った環境に身を置いてみると案外精神的に安心している自分に気づいたのだった。疑いもしなかった自分の「幸せ」な生活のモデルが必ずしも絶対的なものではないということを自覚した瞬間だった。自分で自分を一つのモデルに縛り付け、気づかないうちにそれ以上考えるのを放棄していたのだった。
 私はネパール行きを決めた際に、この村でのステイを心待ちにしていたが、その理由を自分でもはっきりとは理解できなかった。今振り返ると、マイダン村には日本での生活では得られない癒しの要素が存在していたのだった。1つには、住んでいる人達の温かさだった。現地の言葉を理解できない私に対して、伝わらずとも話しかけ、挨拶してくれる村人たちは無条件によそ者の私たちを受け入れてくれただけでなく、おもてなしの精神に溢れていた。2つ目に、連絡取ることが全くできないことが大きかった。いつもアイフォンを持ち歩いていることで少なからず意識がそちらに向いていたが、マイダン村にいる間は全く使うことができず、鎖から解き放たれたような気持ちになっていた。つまり、自分が図らずも享受している物質的な幸せから一旦距離を置き、違った生活様式を持つコミュニティに飛び込んでしまうことで、その贅沢から一時的に解放され、実は自分もそれを切に望んでいることに気づく機会を得たのだ。
 これはOK Bajiさんの言葉を借りれば、文明と心の豊かさの綱引きといえる。物質的に豊かすぎると、ない方に不満を感じることが多くなりがちになる。一方で、小さいことに幸せを感じることができると幸せを感じる回数が自然に多くなるために幸せな気持ちでいる間が長くなるという話だ。これは実際にマイダン村滞在のあとに訪れた他の町のホテルでシャワーや洋式のトイレがあることに対してメンバーの何人もがとても幸せな気持ちになったことからもわかる。
 ただ、私が幸せだけを感じることができたのは、あくまでも3日という短期間であったからという可能性もある。山奥の村ならではの問題点が数多くあった。警察も病院もなく、一度けがなどしようものなら何時間もかけて山間の道をゆっくり進んでいくしかないという不便さは、心の豊かさがどうこうで済まされる話ではない。
 おそらく日本での生活に慣れ親しんだ私が、こうした「非日常」を「日常」にするのは容易なことではない。大切なのは、彼らの「日常」をこちら側の視点で勝手に「非日常」にしてしまうのではなく、「日常」の延長線上で心の豊かさを失わずに彼らの目線で発展していくことだ。



2 件のコメント:

  1. 言葉に思いを乗せて、自分の気持ちを率直に書かれている気がします。
    自分自身が、物質的豊かさではなく、精神的、内面的豊かさを
    どこかで強く求めていることに、共感を受けました。
    人の文章や本に、強い感銘を受けることはあるけれど、身近にいる人の文章で、こんなに
    感銘を受けたのは初めてかもしれません。

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    1. コメント、ありがとうございました。奥山りつさんにいただいたコメントをお伝えします。

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