2019年10月12日土曜日

VJEP2019ベトナム―日本学生交流プログラム 報告書(4)望月みやび (上智大学文学部ドイツ文学科2年)

「これが私。『女版太宰治』の誕生?」

上智大学 文学部ドイツ文学科2年
望月みやび


 帰ってすぐにシャワーを浴びた。ギアをひねった途端違和感を覚える。あつい…。19年間浴びてきた温度に違和感を感じ温度調節のギアを冷水にする。これだ!と。これはちゃんちゃら可笑しい話で私はこの約16日間ほとんど冷水を浴びていたら体がそっちに慣れてしまったという。ベトナムに行かなければ冷たいシャワーの心地よさに気づくことはなかっただろう。ここではあえて一つ一つのプログラムについて書くのではなく世界一自分を愛せない、理想と現実の差に苦しむ1人の女の成長物語について綴ろうと思っている。それが望月みやび、つまりわたしのことなんだが。
  プログラム開始後7日目。光栄なことに関大先生に異名をつけていただいた。その名を[女版太宰治]という。非常に強い劣等感を持ち、自己否定を繰り返しては麻薬や女性に溺れていたあの文豪が?と、最初は違和感しか覚えていなかったものの今ではアイドルのキャッチフレーズのような感覚で使っている。つまり私は物事を悲観的に考え過ぎてしまう。特に自分については重度の思い込みが激しい。
  このプログラムに参加したのは何もできない自分を変えたいという一心だ。一度は自分には関係ないとスルーしたこのプログラム。ずっと逃げていた英語という苦手分野にチャレンジすることで少しは自分を好きになれるんじゃないかと、プログラムの内容も見ずに応募してしまった。
 案の定、私は打ちのめされた。ベトナム人の英語力は並外れていた。最初は話そうと果敢に挑んだものの私の拙い英語に羞恥心を覚え、交流を避けてしまうようになった。怖い。このままではだめだと思い切って日本人のいないテーブルへと座った。すると、ベトナム人のバディーになぜこのプログラムに参加したの?と聞かれた。浅はかだったはずの動機を自分で言葉にした時に、今まで抑えていた感情が溢れて大泣きしてしまった。このプログラムに参加したことを心から悔やんだ。しかし帰国するわけにもいかない。完全にパニックに陥った。このパニック症状で皆に大きな迷惑をかけてしまった。(これについても詳しくは恥ずかしいので割愛させていただく。)
 果てしなく深い無力感に苛まれたまま、時間だけが過ぎていった。このままではいけないと思い、「ダメダメの私だけど、せめて自分に与えられた任務くらいしっかりこなそう!」
そう自分に言い聞かせた。
 実は私は、日本文化紹介パフォーマンスのリーダーを任されていた。事前に日本で関先生から「日本文化紹介パフォーマンスは超大事だからしっかりやってね」とガチのプレッシャーをいただいていた。日本にいるときは「この先生はやたらとプレッシャーかけまくる人なのだ」などと勝手に愚かな分析をしていた。しかし、セレモニーの行われるビンフック省に到着し、私は関先生を大きく誤解していたことに気が付いた。
このオープニングセレモニーはただのセレモニーではない。現地行政府リーダーが一同に介す超盛大な式典なのだ。関先生やベトナムの学生オーガナイザー8名は、この日のために半年も前から準備を進めてきたとのこと。社会主義国家ベトナムで、リーダーの出席する行政府主催公式イベント。前日のリハーサルでの政府担当者の方々の真剣な様子を見て、「ただ事ではない。やばい。」とまたしてもパニックに陥りそうになった。
 「明らかに準備不足の状態でこの日を迎えてしまった。どうしよう・・・。」悲観的な私は、「穴があれば入りたい」と思うほど恥ずかしい気持ちでリハーサルに臨んだ。数日前に行ったあるパフォーマンスの拙さにベトナム学生オーガナイザーから軽い叱責を受けていたことも、私のネガティブ思考に拍車をかけた。この日のために私なりに皆と協力して一生懸命取り組んだつもりではあったが、リハーサル中も「私ってなんて最悪なんだ」としか考えることができなかった。
 舞台の前の最前列で、関先生が深刻な表情でじっと私たちのパフォーマンスを見つめていた。その目は怖かった。もう私はその目が怖くて倒れそうだった。
 リハーサルを終えてステージを降りて、関先生の目の前を避けるように通った。
「想像を絶していた。」
先生の口からボソッと一言。意味が分からなかった。思わず聞き返した。「それはどういう意味ですか?」
「想像を絶していた。こんなにすごいものを創ってくれることなど全く期待していなかった。すごすぎる!」
私を見る眼差しが輝いていた。続いて先日私を叱責したオーガナイザーからも、一言「great!」と言われハグをされてしまった。あまりに思いがけない反応に戸惑ったが心の底から嬉しかった。この瞬間を、おそらく私は一生忘れることがないだろう。「こんな私みたいなやつはただの邪魔者だ。いない方がいい。」と思っていた自分の存在価値を初めて見出すことができた。自分にもできることがある!役に立つことができる!  
 翌日の本番では自分の考えたパフォーマンスが、そして歌う歌が、会場にいる人の心を掴んだのを感じた。それが舞台から彼らの表情でわかった。言葉もあまり通じない、全く違う環境で育った彼らなのに。ベトナムの参加者も楽しんで踊っている。
やった!私もできることがあった!誇らしい気持ちとともに自分への愛情が湧き上がる瞬間。繰り返しになるが生涯忘れることはないだろう。
 さて、この報告書をどこで書いているかというとベトナム、ダナン行きの飛行機の中である。みんなに「プログラム前にあんだけ嫌がっていたのに1ヶ月もたたないでもう一度行くなんて変な人」と言われた。本当にそう、自分でもよくわからない。今回は観光だけ。とはいえこの短期間で二回も行ってしまうほどベトナム愛が強くなっていた。
 VJEPのプログラム前半は、あと何日で帰国できるかと指折り数えていた。絶望感しかないあの時の自分はいったいどこに行ってしまったのだろう。英語について怖気付きみんなの顔色を伺って小さいことにうじうじと悩む自分はどこにいった。
「自分にもできることがある。可能性ってものが沢山ある。」
そう思ってからは、英語に対する気持ちも明らかに変わった。具体的にはダメダメの私に英語などできるはずがないという「無力感」から、英語ができない自分に対する「悔しさ」に変わった。できるのになんでやらないの?私だったらできるに決まってるじゃない(ちょっとぐらい自意識過剰でもいいじゃないか。)
  自分に強みなんてあるのかしら…そう大学生になって呟いてしまったそこの「あなた」に捧げたい。人は変われる。すぐに結果がでないから悶々としてしまうだけ。私はこのプログラムで沢山の失敗をした。なんで自分はこうなんだろう、あの人はできているのに…そう何回も呟いた。しかしこの失敗は成功のための失敗だと胸を張って言える。今後の自分に対するワクワクが止まらない。このプログラムは私の中に眠っていた小さな種に恵みの水をたくさんかけてくれた。まだ知らぬ自分の才能を開花させるために。
 そろそろ温かいシャワーに飽きていないか?それとも冷たいシャワーを浴びることに抵抗を感じている??
 ひとまず自分でギアをひねってみよう。最初はびっくりするかもしれない。辛いかもしれない。でもやがてその冷たさに心地よさを感じる時が来る。自分から動かなければ何も始まらない。


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