2019年10月13日日曜日

VJEP2019ベトナム―日本学生交流プログラム 報告書(5)奥本咲英 (上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科2年)

「VJEP2019に参加して」

上智大学
総合グローバル学部総合グローバル学科2年
    奥本咲英

 

 これまでの人生において、こんなにも濃く、刺激的な2週間は経験したことがありません。見るもの聞くもの触るもの、そして感じることまで何もかもが新しく、自分の世界観がひっくり返るような驚きの連続でした。
 ホーチミンでの一番の思い出は、やはりoutcome presentation です。
(注:outcome presentationはプログラム最終日の成果発表コンテスト。プログラム日越参加者20名が5グループに分かれビンフック州におけるビジネスモデルを提案した。)
 私は今プログラムのほとんどのイベントにおいて何かしらの反省点があり、こうしておけばよかったと後悔することが多々あるのですが、outcome presentationだけは最善を尽くせたと自信をもって言いきることができます。結果から言うと私たちのグループは一位を獲得できたのですが、その背景には多くの困難がありました。ひとつは言語の壁です。チームごとにグリーンビジネスモデルを考案していく中で、やはり意見の対立が何度も起きました。絶対にこうした方が利益が出るし現実的だと思うやり方があっても、拙い英語では上手く説得できず、ベトナム人参加者に言い負かされて本当に悔し涙を流したこともありました。あまりにも意見をはね返されるので、もうあの子たちの言う通りにすればいいと一度は投げやりな気持ちになってしまったのですが、起業資金や売上高などの具体的な数値を一緒に計算して説得するという別のアプローチを試してみたところ、私たちの意見の信憑性が増したようで、すんなり受け入れてもらえました。おかげで自分たちも納得できるビジネスプランに仕上がったので、あの時引き下がらなくて本当によかったと思います。
 また、このビジネスモデルはビンフックでの起業を想定したものだったのですが、そもそもその土地柄、名産、気候、物価、伝統、人柄などなど、ベトナムに関する知識がまるで無かったのでプランの構想を練るのは困難を極めました。下調べ不足だったことを後悔すると同時に、文化交流やビジネスにおいて相手のバックグラウンドを知っておくことがどれほど大切なのか痛感させられました。ベトナムと日本は同じアジア圏であり、すでに重要なビジネスパートナーですが、今後さらに共同開発が進んでいく中できちんと双方のことを理解し、リスペクトの精神をもってあたることが求められると感じました。
 また、今回ひとつ考えさせられたのが、自国の文化が消失しつつあるということです。日本側とベトナム側がそれぞれの国の文化を紹介し合う時間があり、伝統衣装や踊りなどを披露しました。わたしはソーラン節やエイサーなどを担当したのですが、その準備をしている際、日本の文化なのになぜこんなにも踊れないのだろうとふと思ったのです。ソーラン節を完璧に踊れる日本人はひとりもおらず、エイサーに関しては全くと言っていいほど何も知りませんでした。浴衣ですら、YouTubeの見本動画や友達の助けを借りずに着付けられるメンバーは少なかったです。日本人にも馴染みのない文化を日本文化として披露することに若干の違和感があったのは私だけでしょうか。とはいえ、海外の方が想像する「日本」はやはり今回私たちが用意したような音楽や踊りなのでしょう。伝統文化と現代の文化の差があまりにも大きく、文化とは何だろうということを考えさせられました。
 また私は、ビンフックを訪れたことで、旅行ではなくこのプログラムでベトナムに来られてよかったと思えました。理由はたくさんあるのですが、一番は都市と地方の格差を肌で感じられたからです。ベトナムへの旅行経験がある友人はみな、「ホーチミン、すっごく都会だったよ!想像と全然違うし、ベトナムは発展途上国という感じがしなかったな」と言っていました。確かにホーチミンはショッピングセンターや高層ビルも多くあり、なるほど都会だなと思いました。しかしビンフックは少し違いました。山道の舗装がされていなかったり、お湯が出なかったり、数キロ先まで市場が無かったり。旅行でホーチミンだけ訪れていたら、「なんだ、本当に都会だ」で終わっていたと思います。ビンフックに行ったおかげで、エスニック・マイノリティーの子どもたちと触れ合えたり、都心部とは異なる生活を送っている人々の様子を生で見ることができたので貴重な経験だったと思います。
 最後になりますが、関先生がリフレクションタイムでおっしゃっていたことが心に刺さったので紹介したいと思います。お互いに英語が第二言語であるという言葉の壁から、ベトナムメンバーと思うように交流ができないことに私たち日本人は2週間毎日悩まされ続けました。そんな私たちの様子を見かねて、関先生はこのような言葉をかけてくださいました。「君たちはベトナムという国、そしてベトナム人メンバーに対して興味があるのですか?彼らの将来や、彼らが社会主義という今の政治体制をどのように思っているのかなど、気にならないのですか?興味があれば、言語なんて関係なくなんとかして聞いてみたいと思うでしょう。英語力があるとか無いとかの以前に、話したいこと聞きたいことが無いというのが問題だと思います。」本当にその通りだと思いました。そう言われて初めて、この人たちのことを自分はまだ何も知らないことに気が付きました。はっとさせられたとはまさにこのことです。そのアドバイスを受けてから、みんなに将来のビジョンを聞いてみました。すると、意外なことがわかりました。みな一様に、この先ずっとベトナムで生活し続けるつもりだというのです。将来は世界に出て働きたいという人たちだと思い込んでいたので、驚きました。その驚きから、なぜずっとベトナムにいたいのか、ほかの若者も同じような考え方なのかなどさらに聞き出すことができ、自然と深い話につながりました。当たり前のことなのかもしれませんが、海外の方と交流する際に最も必要不可欠な心構えに気づかせてくださった関先生には、本当に感謝しています。
 2週間のプログラム中は辛いと感じることの方が多くて日本が恋しかったのですが、いざ帰国してみるとこんなにもベトナムが懐かしく、outcome presentationやハイキングなどしんどかったことであればあるほど、良い思い出になっていることが不思議で仕方ありません。大袈裟かもしれませんが、「今、自分は生きているんだ。」と毎日、どんな瞬間にも感じられるくらい、密度の高い時間でした。なんとなく過ごした時間なんて、一分たりともありませんでした。VJEPという素晴らしいプログラムに関われたこと、参加者やオーガナイザーのみなさんと出会えたこと、ほんとうにうれしく思います。ありがとうございました。

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